立ち入り禁止に甘えているのか転落防止のフェンスは取り付けられていなかった。

早朝の学校はやけに静かだ。朝練をしている部活はどこもなく、グラウンドからは野球部がバットでボールを打つ音もトラックを走っている人達の掛け声も聞こえてこない。同級生や先輩達が登校してくれば、たちまち騒がしい場所になるからあまりの静寂に不自然さを感じた。

屋上の縁には一人の少女がたっていた。不思議なことに満面の笑みを浮かべながら、こちらを向いていたのですぐに仁菜とわかる。

黒く透き通った髪のポニーテールに少し曲がった鼻筋。そして小顔で少女漫画に出てきそうなぐらいに可愛い見た目だ。きっとこの姿を一度目にすれば、忘れることはないだろう。

とにかく、屋上から落ちてしまう前に止めないと。

「危ないよ。話だったらいくらでも聞くから戻ってきてよ。私達、幼なじみでしょ?」

驚いて転落しないように、できるだけ穏やかな口調で言う。

「私ね、いじめられてたの。もうこんな人生なんてうんざりよ」

仁菜は困ったような顔で言った。

あんなにコミュニケーション能力抜群の彼女がどうしていじめられなければいけないのか。それはよくわからない。けれど辛かったのは変わらないから寄り添いたいと思う。

自殺するなんて仁菜がいない世界なんて私には考えれない。彼女と一緒にいることが私にとったら生きる希望になっていて、今の自分がいるのも仁菜のおかげである。だから失いたくなんかないのだ。

「待ってよ。私を置いてかないでよ」