夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

なるほど。その考えがあったか。けれど想い人って……誰?

「どういうこと?」

《教えてあげなーい》

ヘラヘラ笑いながら咲結は言った。まるで不思議そうにしてる私の声を聞いて、楽しんでいるよう。理由はよくわからないので、受け流すことにした。

《じゃあ、東山君とちゃんと話しなさいよ。またねー》

その言葉を最後に通話はブチりと切れる。

言いたいことだけ言って去るなんて嵐みたい。ひとつため息をついてからスマホの電源を切った。

『なにもないから。……ほっといて』

ふと昨夜椿に放った言葉を思い出す。今考えたら失言としか言えない。心配してくれたのに怒るなんて八つ当たりだ。

謝らなくちゃ。

淡いピンク色のメガネをかけて部屋を出る。それから階段を降りた。キッチンの方からは生活音が響いてくる。

一瞬、母さんかなと淡い期待を抱いたけれど、それは容赦なく打ち砕かれた。

キッチンに立つ椿はコンロの火で卵焼きを焼いているよう。パチパチという油の跳ねる音が廊下まで響いてくる。その音が心地よくて、自然と足が止まり、気づけばその場に立ち尽くしていた。

「俺は知っていた。胡桃が幽霊だってこと。会いたいと祈ったのは俺だから」