夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

私、という存在は既に完結した。そう言われても過言ではない。それでも未練があるだけでこの世に取り残されている。ある者達以外は誰も存在を認識してくれない、幽霊という儚くて可愛そうな存在で。

ある者達とは紡神社で私に会いたいと祈ってきた人達。椿、咲結、幽霊の仁菜のことだ。そしてその神社の守護神の紡さんは、またあの世への案内人を務めているから私の存在が認識できるのだろう。

いっそ、あのまま仁菜と一緒にあの世へ逝ってしまってもよかった。

でも……。

『胡桃に助けられるのを、俺はずっと、待っていたような気がするんだ』

その椿に言われた言葉が、耳の鼓膜にこびりついていて、離れようとしてくれない。

紡さんは『あっちでなんとかしておく』と言っていた。けれどそれを椿は望まないだろう。

その上、私にとっても納得がいかない。せっかくお気に入りの本『君のためなら、僕は』を通して、椿がくれた優しさという名の勇気を通じて、仁菜と咲結に背中を押されたことを通して、この17日間を生きてこられたのだから。

幼い頃から家族にあまり会えない寂しさをまたも乗り越えて、咲結を助けに行って、いじめを止めて、椿を連れ出した。それだけでも充分に大きな勇気が、私の中には生まれていた。

最後に私から恩返しがしたい。椿を自分の力で助けてそれから逝きたい。その祈りは届かないのかな。

「どうせ、無理だよね。私が助けるなんて」

残された時間は少ないから。私の姿は椿の両親には見えないから。助けれる可能性は最初からゼロ、と言われても過言ではない。