そんな気まずい雰囲気から抜け出そうと体をバタバタと動かしてみるが、なかなかうまくいかない。というか逃げようとする度、きつく抱きしめ返されてる気がする。

結局私は逃げ場のない足をバタバタさせることしかできなかった。

「逃げないで」

いかにも心配そうで真剣な目をして椿は言った。途端に暴れていた足は自然に動きを止める。状況の把握もできてないくせに、安易に体を許している自分がいた。

私が動かないのを落ち着いてくれたと察したのか、椿は言葉を紡ぎだした。

「おまえ、うなされてたぞ。五日経っても起きねぇし、体は前より冷たいし、ほんと俺の前からいなくなってしまうんじゃないかと思ったじゃん」

椿は真っ直ぐな眼差しを向けて言う。

「ごめん……って私、五日も寝てたの!?」

反射的にそう叫ぶ。

「おう。だからそれのお仕置き」

そう言っていじわるっぽくニヤリと笑った。

思わず心の中でため息をつく。申し訳なさに自己嫌悪な言葉を脳裏に並べた。

「ほんとごめんね。私、疲れてたのかも」

椿の過去の夢を見せられていたなんて口が裂けても言えるわけがない。

「てか、お腹は?五日間、何も食べてないんでしょ?」