そういや今日、九月二十九日はお前の誕生日やったな。おめでとう。たしか、十四になるんかいのう。時の流れというのは実に早いものじゃ。

椿。髪は無理に切らなくてもよい。抗わなくてもうよい。お前は充分よく頑張ったから。じいちゃんの自慢の孫じゃ。そしてここまでじいちゃんを信じてくれた。それだけでこの上なく幸せじゃ。

好きにしてよい。逃げるのもあり。息子や友達に言うのもありじゃ。話せば少しは体が軽くなる。もちろん、何もしないのもありじゃ。じいちゃんはそれを一番、望まないがな。

おっといけない。書きすぎてもうたな。目が疲れるだろうし、これぐらいでお別れとさせてもらうよ。

一つ言い忘れてたが、自殺はごめんじゃよ。じいちゃんの罪の償いが台無しで罪悪感抱くからのう。約束だぞ。見えなくとも聞こえなくともお前のそばにおるからな。一人には絶対にさせない。

幸せに生きろよ。良い女も見つけてな。そしていつかまた、あの世で会おうな。
じいちゃんより』

文字を追っていく度、気づけば涙が溢れていた。柔らかく丸みを帯びたお祖父さんの字は私の涙で滲んでいく。

どんだけ優しいお祖父さんなんだと羨ましく思い、胸を打たれた。

『どうして俺を置いていったんだよ。教えてくれよ』

椿のいつかの言葉を思い出す。きっと椿はあの遺書を読んでないのだろう。そしてその遺書は椿の父の手元にあるのだろう。それならそれで椿に渡さない理由を知りたいが。

涙で遺書がぐちゃぐちゃにならないうちに私はそれをお祖父さんの近くに置いた。