夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

成人女性のその声と共に辺りは光に包まれた。いよいよこれが最後の場面である。

場所は椿の家だ。夜の涼しげな風に揺らぐ緑のカーテンと微かに聞こえてくる虫の合唱。おそらく季節は晩夏だろう。冷たい風が秋の訪れの気配を際立たせていた。

「あんた、また髪切ったの？」

静かな居間には似合わない怒声が宙に響く。もちろん、椿の母の怒声だ。

母と向かい合うように立っている椿は、拳をこれほどまでかと力強く握りしめ、顔を俯かせている。険悪な空気に包まれているのが瞬時にわかった。

「母さん、俺は一応男だよ。それにこの髪形の方が俺は気に入ってる」

自信のないような口調で椿は言った。きっとまだわずかながらに、お祖父さんの言葉を信じて、必死に抗おうとしているのだろう。

椿の父はというとまだ仕事から帰ってきていない。警察官をやっているからいつも事件のことに忙しいらしく、帰ってくるのは深夜だ。

つまり助けなんて呼べようもない状態。椿の母からしたら絶好の場なのである。

そんな中、廊下にはいつもこの家にはいないはずの人物がいた。お祖父さんだ。薄暗い廊下に身をひそめて息を殺して、耳を澄ましている。きっと椿の腕の傷を怪しく思って様子を見にきたのだろう。

「これで何度目だと思ってるの？あんたの意見なんか聞いてないから」

眉間にシワを寄せ、おぞましい顔をした母は勢いよく椿に刃が出たままのカッターを投げつける。それはまっすぐ椿の腕に刺され、その傷口から赤い血が溢れだした。その姿はより一層、弱々しくて見ていて辛かった。