夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

あのまま追いかけていたとしてもしてあげられることはなにもなかった。いくら慰めようとしたって呼び止める声すら彼には聞こえない。まったく届かないのだ。

その上、姿も認識してくれない。私の姿も彼には見えていないから。つまり、なにをやっても無駄だということだ。過ぎ去ってしまったことを変えることは当たり前だけど、不可能である。

「さて、あと一場面ですが、ここまで見てきて思うことはありますか?」

唐突に成人女性は問いただしてきた。

元気な男に生まれた椿。なんの罪もないはずなのに、女じゃなかったというだけで、自分勝手な母に長くさせられた髪。そのせいで日常的にするようになった、嬉しいような悲しいような、なんとも言えない複雑な表情。お祖父さんの前だけで見せていた無理矢理の笑顔。そして悲しませたくないだけにつき続けた下手な嘘。母からの虐待がエスカレートしたことにより、掠れた声と腕に増えたカッターの傷跡。そのすべてが脆く、儚く、見ていて辛いものでしかなかった。

助けたい。そしてもう二度と、辛い思いはさせたくない。そのためには私がそばに寄り添ってあげるべきだ。実際、そうしたくてたまらない。

けれど……。

「こんな私にできるのかな?」

一度は友と交わした約束を守れないまま、破ることになってしまった、最悪な私が。そもそも虐待を止める方法も知らないし、考えだって一つも思い付いてすらいない。今になって不安が募り、弱虫な自分が出てくる。