夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

そう言いながら椿がきているフードつきのブルーパーカーの袖に触れようとする。

いけない。お祖父さんを悲しませてしまう。

咄嗟に椿とお祖父さんの間に割り込むように立つけれど、もう手遅れである。お祖父さんの手は、この夢の中では幽霊である、私の体をすり抜けて椿のブルーパーカーの袖に触れた。

そしてそれ強引にまくり上げた。拍子にいくつものカッターの傷跡が姿を現す。

パチン!

椿がお祖父さんの手を振り払った音が静寂なリビングに響く。張りつめた空気になっているのが、嫌でもわかった。

「その傷はどう……」

大きく目を見開いて驚いた表情をしているお祖父さんは、多大なショックを受けたようで、言葉を失っていた。

「嘘つき……」

椿がぼそりと呟く。それから声を荒げて言葉を紡いだ。

「おやじの嘘つき!抗ったって無駄だったんだ。悪くなるばかりだった!努力が報われるって嘘じゃないか!」

椿の怒声がキッチンに響く。お祖父さんも椿も世界の終わりのような憔悴した顔をしていた。

確かに椿の人生は母に抗えば抗うほど、幸せに変わるどころか、孤独に染まるばかりであった。それへの怒りと悲しみがふつふつと溜め込まれていって今、まさに爆発したところなのだろう。気持ちはわからなくもないし、おかしくもない。