夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

その上でも椿はお祖父さんの言葉を信じて伸びてきた髪を度々、切っていた。それでも虐待はなくなるばかりか、ひどくなるばかり。抗おうとしたのがさらなる悲劇を呼んだのだ。

それを見ているこっちまで辛くなったことが何度あっただろうか。この夢を抜け出したいと思ったことが何度あっただろうか。

とにもかくにも絶望に身を委ねるしかない、最悪な二場面であった。

それから月日は経ち、三年後のある日、身長も伸びて中一となった椿は、母が買い物に行った隙を見て家出をした。きっと心も体もボロボロだったのだろう。やむを得ないことだ。

向かった先はもちろん、お祖父さんの家だ。ここ三年、一度も顔も会わせれてないし、年賀状のやり取りすらもさせてくれていない。小四のときはまだ六十七歳だったのでもう七十歳にはなっているであろう。

外では涼しい風が吹いている。大木公園の大木はほのかに紅葉していたので、今の季節は秋らしい。

三年ぶりということもありながら、緊張して震えた手で椿はインターホンを鳴らす。ピンポーンというくぐもった音がお祖父さんの家中に響いた。

「誰じゃろか」という声と共に聞こえてくる足音。ガラガラと引き戸が開き、お祖父さんが顔を出した。

「久しぶりだな。おやじ。家、抜け出してきちった」

無理矢理にニシシと笑いながら椿は言った。第二次成長期に入ったり、反抗期になったことから、椿はお祖父さんのことをじいちゃんではなく、おやじと呼ぶようになったらしい。

今年で七十歳になったお祖父さんの顔にはシワが増え、ますます老けてきている。そのわりには腰も悪くなく、最近農業を始めたというぐらい、体は元気そうであった。