夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

「まさかこの家に散髪用のハサミがないとはな」

「いつも散髪屋で切ってたから必要なかったんだ」

お祖父さんの声に椿は平然と答える。髪切りバサミなんて普通に家にあるものだと思っていたが、勘違いだったようだ。

「椿、よく聞け」

お祖父さんは急に真剣な目をして言う。それから言葉を紡ぎ始めた。

「おまえの母さんに流されてばかりじゃいかんぞ。自分の幸せは自分で決めて自分で掴みとるものだ」

高らかにお祖父さんは言う。

「人からされることが自分にとって嫌なことなら抗えばいい。何度けなされたって。たとえ親だとしても。そうすりゃいつかはやめてくれるさ。努力すれば報われるっていう言葉あんだろ?」

力強くお祖父さんは言った。そして大きな手のひらで、椿の小さな両手を優しく包んだ。

「ほんと?」

弱々しい声で椿は問いかける。きっと椿の母の反応に怯えているのだろう。

「ああ。嘘だと思うのならやってみればいい。これをおまえに託すから」

そう言ってお祖父さんはついさっきまで、手にしていた散髪用のハサミを、椿の小さな手の上に乗せた。

椿はしばらくの間、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた。嬉しいような悲しいようななんとも言えない複雑な顔を浮かべながら。

「わかった」