誰かが床に倒れた音がする。反射的に瞼を開くと、そこには母からの顔面パンチを腕でガードした勢いのまま床に転んだ椿がいた。長い前髪の隙間から見えた栗色の瞳には涙の雫が溜まっている。悲惨としか言えない、そんな状況だった。
「じゃあ、今言ったということで。その髪、二度と切るんじゃないわよ!」
そう冷たく吐き捨てて、椿の母はリビングに入っていった。
張つめた空気から解放されて一気に力が抜ける。いつの間にか息も荒くなっていたので、深呼吸をして整える。それだけでも心は落ち着いていった。
幼い椿はあっという間の速さで自分の部屋に閉じ籠ってしまった。すぐにでも様子を見に行きたいところだけれど、人の部屋に入るなんて悪趣味だ。
そもそも私が他人の家に入っているところから変人だった。夢の中だし、あちらに私の姿は見えていないから追い出されずに済んだのは好都合なのだけれど、どこかぎこちない。
「椿なんて、産まなければよかった」
ふとリビングの方から呟くような独り言が聞こえる。その声が聞こえる方に目をやると、この世の終わりのような死んだ目をして、落ち込んでいる椿の母がいた。
「本当は女の子が欲しかったのに……あなたとお祖父さんが男の子が欲しいと言ったから仕方なく産んでやったのに」
ダイニングテーブルに顔をうずめてそれを叫んでいる椿の母は嗚咽を洩らしながら言った。
あなたとは椿の父のことだ。
「じゃあ、今言ったということで。その髪、二度と切るんじゃないわよ!」
そう冷たく吐き捨てて、椿の母はリビングに入っていった。
張つめた空気から解放されて一気に力が抜ける。いつの間にか息も荒くなっていたので、深呼吸をして整える。それだけでも心は落ち着いていった。
幼い椿はあっという間の速さで自分の部屋に閉じ籠ってしまった。すぐにでも様子を見に行きたいところだけれど、人の部屋に入るなんて悪趣味だ。
そもそも私が他人の家に入っているところから変人だった。夢の中だし、あちらに私の姿は見えていないから追い出されずに済んだのは好都合なのだけれど、どこかぎこちない。
「椿なんて、産まなければよかった」
ふとリビングの方から呟くような独り言が聞こえる。その声が聞こえる方に目をやると、この世の終わりのような死んだ目をして、落ち込んでいる椿の母がいた。
「本当は女の子が欲しかったのに……あなたとお祖父さんが男の子が欲しいと言ったから仕方なく産んでやったのに」
ダイニングテーブルに顔をうずめてそれを叫んでいる椿の母は嗚咽を洩らしながら言った。
あなたとは椿の父のことだ。


