夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

椿が心配そうに声をかけてくる。いつの間にか箸を持つ手が止まっていたようだ。

「なんともないよ」

愛想笑いをしてごまかす。理由がわかるまではなんとなく、だれにも話さずにしておいた方がいいような気がしたからだ。

椿は一瞬ぼんやりとしてからまた冷やし中華を美味しそうに頬張り始めた。そして時に「うまい!」と叫ぶ。それだけで心が救われたように、いつの間にか自然の笑みを浮かべていた。

「ごちそうさま!いやーこんなにうまいの久しぶりに食べた。ありがとう、胡桃」

椿はあっという間に冷やし中華を食べ終え、顔をくしゃくしゃにして礼を言ってきた。その笑顔につい嬉しくなる。また料理を作ってあげたい、そんな気持ちが脳裏をよぎった。

「よかった。また作るね」

私はそう言いながら空っぽになったお皿をシンクに持っていく。お腹も空いてないから自分は残してしまったけれど、椿が喜んでくれてよかった。作ったかいがあった。

「おう!あ、食器洗い手伝う」

椿は慌ててキッチンに入ってくる。そうしたい気持ちもわからなくもないけれど。

「ダメ!傷口がしみるでしょ?」

カッターで切られた痕もあるんだし、それで水なんか使ったらどうなるか。想像するのもちょっとだけ嫌になる。

「大丈夫だって。ご馳走してくれたお礼にやらせてよ」