「…泣いてたよ、おまえ」

「……っ、ちょっとよくない夢見た、だけ」

「俺の名前、呼んでた」

「……っ、」

「俺も、ミオの夢見てたよ」



知ってるよ、そんなの、
だって私のことを夢の中で呼んでいたのは、シキのほうじゃん。


わたしの涙の跡を擦って、少しずつシキが近づいてくる。
視線が絡んだまま、距離がどんどん縮まっていって、唇が触れそうになる手前で、わたしがそれを拒んだ。



「…なんで、だめ、だよ」

「……」

「もうシキの彼女じゃないもん」




それどころか、わたしは、シキの好きな人じゃない。
夢のなかで、シキが伝えてくれた言葉は、ちっとも現実じゃない。




「…聞きたくないって言ったな」

「……聞きたくないに決まってるじゃん」

「なんで?」



こっちを向いて、と言わんばかりに無理やりもう一度シキのほうを向かされた。

シキは不機嫌に眉を寄せていて、わたしはふるふると首を横に振る。



「…聞きたくないから」

「それ、俺の好きなやつがだれかわかって言ってんの?」



好きなやつ、

わかるわけない、というより、知りたくも、その存在も、聞きたくもない。
シキの口からそんな言葉が出てくるのがもう嫌だった。