さよならは響かない





眠っているのか、意識があるのか、わからなかった。
何度も呼ばれる名前に、応えてもシキは目を覚まさないから、夢の中にいるのだと思った。

シキの夢の中にわたしが登場しているのなら、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているのか教えてほしい。



「シキ、」

「……まもら、せて、」

「……っ、」


「そばに、いて、」



ねえ、ずるいよ。

いったいきみは、どんな夢を見ているの。


夢の中でわたしは、シキにとってどんな女の子なの?
夢の中でわたしたちは、どんな関係?

まるで大切だと言われているようで、苦しくて、悲しくて、また泣きそうになった。



「……そばに、いるよ」


枕にしがみついた手の甲にそっと触れれば、力がすっと抜ける。


触れてはいけないと思いながらも、手を伸ばさずにはいられなかった。

シキの苦しいは、いつだってわたしだけが共有していたかった。



力をなくした手のひらにそっと自分のを重ねれば、意識は夢の中のくせにシキが底をぎゅっと握りしめてきた。


きゅうっと締め付けられる苦しさは、悔しいけどシキのことが好きだという証明だ。

そこにおんなじくらいの力を込めて握り返せば、シキからはまた規則正しい寝息が聞こえた。