さよならは響かない





看病なんだからいいじゃん、

梨可ははっきりしているから、心配だったって言えばいい、それだけだよ、と言い残して先に教室を出ていった。



一人で帰るのは久しぶりだった。

帰り道にコンビニによって、シキの好きなブルーベリーのヨーグルトと風邪ひいたら食べるアイス、それからゼリーとカットフルーツを買った。



シキの好きな食べ物は全部知っているし、バナナが嫌いなことも知っている。
風邪をひいたらアイスを食べたくなることも、食欲がないからおかゆとか雑炊は一切食べてくれないことも知っている。


気づいたら早足になっていて、でもその反面シキが目を覚ましていたらどうしよう、とか、なんて話しかければいいんだろう、とか、不安でいっぱいだった。




佐久にいが帰ってのは7時くらいだと言っていた。

それまで様子を見てくれるとありがたい、とポストの見えないところに鍵が貼ってあった。




「…おじゃま、します」


玄関にはシキ靴だけが置かれていて、しんと静まり返った家の中に入り込むのは少し緊張した。


階段を上ってシキの部屋に向かう。
正面からシキの部屋に入るのは本当に久しぶりで、ドアノブに手をかけるのにすら躊躇した。



こんこん、とノックしても声は返ってこない。

ゆっくりと扉を開けて、シキの部屋に入り込んだ。