「甘えてもいいんだよ、俺には」
とっくに私のもとから先輩のところに移動されていたコーヒー、それから反対に渡されたメロンソーダ。
自分が都合よくつかわれていることだってわかっているのに嫌な顔せずにわたしのことを選んでくれる。
「…もうずっと、甘えてます」
わたしは、センパイに何も返せていない。
なにも、返せない。
「みいはいつも、一人で抱え込むからなあ」
「先輩が笑わせてくれるから、じゅうぶんです」
おんなじ量の好きを返せないのは、どうしてだろう。
佐久にいのときのように、気づいたらシキへの恋心が薄れて、先輩のことを好きになる日はやってくるのだろうか。
なんてそんなことを考えても、浮かんでくるのはあの女の子の声だった。
『ハチ、そろそろ本気で私と付き合わない?』
あの女の子が、ただの遊びじゃないってことはもうずっと気づいていた。
昼休みの終わり、シキにそう言っていたのが聞こえてしまったことを、わたしはずっと悔やんでいる。
「これからも、泣きたくなったり、笑いたくなったら、いつでも俺を頼って」
俺なら何があっても、みいのとこに一番に行くからね。
そういって、あっという間に話をすり替えて何もなかったように先輩はまた私に笑顔を落としてくれた。



