嫌いな食べ物も食べれるようになっていた、苦手なコーヒーも気づけば無糖で飲めるようになっている。
もうずっと離れてしまっている心の距離だけでなく、すべてが遠ざかってしまうのは、耐えられない。
「みいは、どうして怒らないの」
「怒る、って、」
「蜂屋に言えばいいじゃん、ほかの女の子と遊ぶのをやめてほしいって」
「…言えません、そんなこと」
言ってしまえばたぶん、もう二度と隣にはいられない。
わたしが初恋をとっくに終わらせていることに気づかれてしまえば、シキはわたしを裏切り者だと思って離れていってしまう。
だったらいまでも佐久にいのことを好きでいるふりをして、シキに疵付けられていること全部ごまかして、シキに慰められているほうがましだった。
シキが疵付いているそこに付け込んで、もっとわたしを手放せないままでいてほしい。
「おまたせいたしました、こちらがハンバーグ定食とイチゴパフェになります」
ウェイトレスのお姉さんが頼んだものを運んできて、おなかを空かせている常盤先輩はそれにすぐにナイフを入れる。
「いただきます」
常盤先輩の、食べる前にちゃんといただきますっていうところが好きだなあと思う。
当たり前のことを当たり前にできる人。
わたしのことを見ている瞳が、いつもまっすぐで、このままこの人に落ちてしまえればいいのに、なんていつも思っている。
「ねえ、みい」
「?どうしたんですか、」
「好きだよ」



