さよならは響かない





ちっともおいしいと思えない無糖のコーヒーを一口飲んで、やっぱりおいしくないけれどそれを顔に出さないように元の位置に戻す。

先輩はコーヒーを嫌な顔一つしないで飲む、それからその横に置いてあるメロンソーダをこちらに差し出す。

本当はわたしが好きな飲み物がメロンソーダだとわかりきって、自分のコーヒーと一緒にそれを持ってきてくれるのだ。



「コーヒー、まだ飲めるようにならないんだね」

「…その言い方は意地悪です」

「うん、ちょっと意地悪言った」



だって、蜂屋が飲めるようになったから飲みたいんでしょ、

どうして苦いと思うコーヒーを顔をしかめてまで飲むの、初めてここに来た時にあっさりばれてしまったことを、正直に白状したことを今でも先輩は覚えている。



「…置いてかれたくないから」



シキが、どんどん大人になっていくような気がするのだ。

おんなじ速度で隣を歩んできたつもりだった、そしれこれからもずっと、幼馴染としておんなじくらいに大人になっていくとばかり思っていた、あの頃は。
高校生になって、シキは幼かった顔が大人っぽくなって、身長は気づけば視線を合わせるのに苦労するくらいには伸びて、手のひらは男の人のようになった。



シキは、これからどんどん私を置いていこうとしているのだ。

いづれお姉ちゃんに対する恋心さえも拭いきって、わたしのもとからはやく離れていこうとしているのだ。