「みい、」
わたしを呼ぶ声に振り返れば、シキを呼んでいる女の子を通り過ぎて、教室に足を踏み入れた常盤先輩がいた。
シキと、先輩がすれ違う。
シキは一切、先輩のほうを見ていなかった。
「…せんぱい、」
「準備、できた?帰ろう」
「はい、」
先輩は周りの視線をちっとも怖がっていない。
堂々と私の教室に入ってきては、周りの女子がわたしを見てひそひそと話していることも気にせずに、わたしのバッグをするりとと奪っていく。
廊下から、シキと女の子のことを見つけたのだろう。
先輩はいつも、わたしのことしか考えていない。
「荷物、もてますよ、自分で」
「そう?俺のより重たいから、みいは俺の持ってなよ」
「ふ、なんですかそれ」
「中身空っぽだから、軽いでしょ」
渡されたバッグは、本当に何も入っていないくらいに軽くて、それを肩に駆ければ満足そうに先輩は笑った。
「今日は、何が食べたい?」
「うーん、いつものファミレスの、イチゴパフェが食べたいです」
「ふは、みいっていつもそれじゃん」
廊下を二人で歩くことに、そういえばずいぶん慣れてしまっているような気がするし、よっぽど先輩といるときのわたしのほうが彼女の振る舞いができているなと思う。
これをみてシキは何も思ってくれないのだから、やっぱり私たちの気持ちの差なんてその程度なんだろうな、と思う。
階段を下っているとしたから響くように聞こえる声の高くて大きいあの女の子の声がすごく鬱陶しく耳に入ってくる。
その隣で笑っているシキがいると考えるだけでこっちはひどく苦しんでいるなんてことも、きっといつまでもシキは気づいてくれない。



