「アタタタ・・!」
「オジサン無理しなくても大丈夫ですよ。」
「バーロ。まだまだひよっこのお前らに任せ・・アタタタ・・!」
僕達が“未成年”から“成人”になると同時に、オジサンや仲間の皆さんも歳を重ねる。
年々腰が悪くなっていくオジサンが、またギックリ腰を発症したので布団に寝かせる。
勇気を出して・・・
オジサンの力に、皆の力になりたくて、
頑張って自動車“学校”へと通って、
運転免許を取得して、
今では僕が軽トラを運転するようになった。
オジサン以外の仲間達は、年が経過する度に平均年齢70歳から上がっていく。
あの頃の・・
14歳だった自分をぶん殴りたいほど、
僕は初めて“死”がどういうものなのか思い知らされた。
寿命を迎えれば人は亡くなる。
それがどれほど悲しく・・儚く・・
涙が止まらないものか・・。
生きる術や農家としての誇りを教えてくれた仲間の皆さんは、
最期に僕達に“命の尊さ”を教えてくれた。
少し前までは元気に漬け物をおすそ分けしてくれた姿がもう無い。
当たり前のように繰り広げられた光景はもう二度と起きない。
1人・・また1人と精一杯生きた命が空へと還っていく。
・・消えていく命・・・
それと同じようにまた・・
生まれる命がある・・・。
・・・・・僕は今・・・
「・・フミヤ・・・。」
「アオイも寝てなよ。
つわりがひどいんだろ・・?」
「私やっぱり・・
“五味”になりたい・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「オジちゃんも・・
良いって言ってくれたの・・。」
「僕は・・・男の子か女の子かまだ分からないけど・・
自分の子供が“ゴミ”呼ばわりされるのは絶対にイヤだ・・。」
「・・・・・。」
「・・・僕が婿養子になる・・・。」
「フミヤは一人っ子なんでしょ・・?
私はお兄ちゃんがいる・・。」
「・・・・・・・・・。」
「きっとお義父さんもお義母さんも、
フミヤには跡取りをって・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「私・・“五味”の由来を調べたの・・。
仏様が[甘・辛・酸・苦・塩]
と称した味覚の事・・。
でもこれは・・
“味覚”だけじゃなくて・・
私とフミヤが経験してきた“感情”にも当てはまると思った・・。」
「・・・・・・・・・。」
「私はフミヤのおかげであの時飛び降りるのを躊躇できた・・。
フミヤのおかげでオジちゃんと再会できて・・生きる事が出来て・・。
色んな野菜を通して“五味”を知る事が出来て・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「フミヤのおかげで“人を好きになる”気持ちを・・【恋情】を知れた・・。」
「・・・・・・・・・。」
「私達・・学力も無いまま大人になったけど・・
でも・・“五味”の素晴らしさと・・
“生きる事”の素晴らしさなら・・
きっと子供にもちゃんと伝えられると思う・・。
例え・・フミヤが苦しめられた心無い人達のような存在が・・
私達の事をなんて呼んだとしても・・私・・・。」
土がついた手を払うことも忘れ、
言葉を詰まらせたアオイを抱きしめた。
アオイ以上に・・僕が泣いていた。
きっと・・多分・・・アオイが僕の事を想ってくれている気持ち以上に・・
僕がアオイを愛しく想う気持ちのほうが勝っていた。
彼女のお腹に宿った新しい命。
その命が誕生する日に、
僕達も籍を入れると決めた。
“逃げれば勝ち”
“逃げればいい”
あの時はそうしたことで結果的に幸せを掴めたけど、もうその考えは捨てると決意した。
僕より身長が低くなったオジサンも、
平均年齢が上がっていく仲間達も、
この世で一番愛しく想う大切な存在も、
そこから生まれる新しい宝も、
“絶対に僕が守る”
たくさんのキャベツ達に囲まれながら、
決意を固めた。