「一緒に死にますか・・?」


僕達が出会ったのは、お互いがそれぞれ自分の命を終わらせようと訪れた・・

校舎の屋上だった。


“先客”として、僕が辿り着いた頃には既に・・彼女は空中へ残り一歩の縁に立っていた。



「・・・1年生・・・?」


「・・・・・・・・・・。」



涙と涙が合った後、彼女はゆっくり頷いた。



どの学校にも、最低“3人”はいる。

もちろんもう少し細かく見れば10人でも20人でもいるかもしれない。


でも、絶対3人は居るうちの・・・

僕が2年生代表で、
彼女が1年生代表のようだった。



「・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・。」



彼女の隣に立って、僕も空中まであと一歩の・・“生死”の境界線に身を置く。


“どうしてイジメられるようになったの?”

“どんな事をされたの?”


“先生は助けてくれなかったの?”

“親にはやっぱり言えないよね・・”


初対面だけど、何も会話を交わさなかった。


わざわざ教えてもらわなくても・・

“自分”に置き換えて考えればいいだけだから、“知らなくても”知ってた。



「遺書は書いてきた・・・?」


「・・一人残らず名前書いておきました。

見て見ぬフリした子も、
先生の名前も・・。」


「僕は何も書かなかった。」


「どうしてですか・・・?」


「お父さんを苦しめたくない・・。」


「・・・・・・・・・。」


「僕のイジメは【苗字】がキッカケだから・・お父さんのせいにしたくない・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」




会話はここで終わった。


その後はお互い無言で、
夜風だけが鼓膜を揺らす。


お互い無言のまま・・
お互い最後の一歩は踏み出さずにいた。


弱くて、何も言い返せなくて、
怖くて、誰にも相談できなくて、
逃げたくて・・逃げたくて・・・。


僕達は天国に行きたいんじゃない・・。

今居る地獄から抜け出したいだけ・・。




「・・一緒に逃げる・・・?」


「え・・・・・。」


何分経ったかも分からない。何故そんな言葉が口から出たのかも分からない。


だけど僕は・・何分前かに“一緒に死にますか?”と聞いてきた涙に対して、

何分後かに“一緒に逃げる?”と涙で返した。



「どうせ死ぬなら・・
逃げて逃げて・・

逃げ終わってから・・
死のうかなって・・。」


「・・・・・・・・・・・・・。」




“生死”を分ける境界線から一歩・・二歩三歩四歩・・お互い離れて校舎の中へと戻った。


“貯金箱を壊す”
“お年玉の貯金を下ろす”
“親の財布から盗る”


待ち合わせ場所と時間だけ決めて、僕達はひとまず“あと1日”生きる事に決めた。