それに私が黙っていたら、芳賀さんはあの拳で凛ちゃんを傷付けていたかもしれないのだ。
そんなことしていたら大きな問題になってそれなりの処罰があったはず。
私が止めに入る寸前、芳賀さんはそれを受けるだけの覚悟を胸に抱いていたのだとしたら……。


「……ありがとぅ」


何度も言い淀みながら、やっとその一言を伝えられた。
萎んでしまった語尾は、雑音に掻き消されてしまったかもしれないけれど。
見ると芳賀さんは大きな瞳を数回ぱちくりさせたあと、


「なーに、どうってことないわ。友達として当然のことをしたまでよ、なんちゃってね」


明るい笑顔を顔中に浮かべ、まるでヒーローみたいに正義感溢れるセリフを言ったものだから、なんだかそれがおかしくって私は思わず口元が綻んだ。
クスクスと小さな笑いを零す私の顔を覗き込んでくる芳賀さん。