「――芳賀さん!」


腰が抜ける一歩手前まできていたせいか、足取りが覚束ない私は早足で先を行く芳賀さんになかなか追いつけなくて、思い切って名前を呼んでみた。
足を止めて振り返った芳賀さんは、思い出したように「あ」と声を漏らす。


「ごめん。色々スッキリしたせいかアンタの存在すっかり忘れてたわ」
「忘れてたって、酷い……」


しかしショックを受けるよりも先に、私には伝えるべきことがあるのだ。


「あの……その……」
「何よ?言いたいことがあるならハッキリしなさいよね」
「……うん」


無性に照れ臭く感じる一方、手のひらを返したような自分の態度が図々しい気がしてならない。
芳賀さんは何を思って、あんな突き放すような言動ばかりとっていた私を救済へ導いてくれたのだろうか。
進藤くんのためであることも認めていたけど、本当に私と仲良くなりたいって思っていてくれているのだろうか。
生半可な気持ちなら、あそこまで感情を露わにはできないと思うけども。