それを確かなものにするように、渉が言った。
「梓。俺と梓には、兄妹という関係もある。それはなくならない」
 それは絶望するような言葉だったかもしれないのに、梓の心はちっとも不安にならなかった。
 不安ではない意味でのどきどきとする心はあるけれど、静かに続きを聞く。
「でも、大人になったなら結婚することも許されてる、一人の男と女であることに違いはないんだ」
 自分もそう言った。
『特別な男のひと』
 お兄ちゃん、ではなく。
 一人の特別な男のひとだ。
「だから恋人にだってなれる」
 ためらうことも、不安に思うこともない。梓はこくりと頷いた。
「うん」
 上のほうから、ほう、と息をつかれるのが聞こえた。
 渉が詰めていたらしい息を吐いた音だ。安心したような、やわらかな吐息。
 梓をしっかりと抱きしめたまま、渉は少しずつ話してくれた。
「あと半年もしたら、俺は高校卒業だ」
「そうしたら一人前の男だ。お前を守れるような男になると約束する」
「そのときには、父さんや母さんにも話す。お前をしっかり守るためにだ」
 どれも梓にとって嬉しすぎる言葉だった。
 義理の兄妹。
 結婚も許された、禁忌などではない関係。
 でも確かにややこしさはあるだろう。
 不思議に思われたり、説明することは必要になってくる。
 けれどそんなこと、かまわない。
 渉と兄妹という関係のほかにも、恋人という関係になれるなら。
 渉に守ってもらうだけではない。
 自分だってそれをしっかり心に持っていて、他人になにか言われようと、はっきり言えるようになる。
 『渉』が好きだと。
 自分にとって、大切なひとだと。
 胸を張って言えるようになる。
「……もうじゅうぶん、守ってもらってるよ」
 渉の背中に手を添えた。
 ここまでいろいろ、それはもう、言葉にしきれないほどいろいろと守ってもらってしまっていた。
 梓が平和に学園生活を送れたのはすべて渉のおかげなのだ。
「もっとたくさん、だ。だから」
 ちょっと言葉を切られた。
 そのあとに続く言葉。梓はわかっていた。
 だって、それがすべてを正しい位置におさめるための言葉だから。
「お前もそばにいてくれるか……? 恋人として。彼女として、だ」
「うん。彼女にも、なりたい」
 恥ずかしいとか、悩んできたこととか、そういうものはもう頭にない。
 梓も正しい返事をする。ためらうことなく。
「……ありがとう」