――貴族の家の娘だろうか。身なりはよく、髪も肌もまったく荒れていない。大きな紫色の瞳が印象的な美少女だ。

 だが何よりも目を引くのは、その髪型。太陽を受けて輝く髪は銀色。まあ、それはいい。問題は、これでもか!とばかりに派手にぐるぐると巻かれた、縦ロールである。

 ぴしりと寸分の狂いなく巻かれ、太陽の光を浴びてきらりと輝く銀糸の縦ロール。そこにはもはや、熟練工が磨き上げたドリルのような美しさすらある。

(なんだこの娘は。髪に鋼でも仕込んでいるのか……?)

 若干引きつつ、アリギュラは眉根を寄せる。なんであれ、聖教会の関係者ではなさそうだ。ローナ聖堂には日々、貴賤関係なく様々な人間が礼拝に訪れるから、この娘もそういったひとりなのだろう。

 なんにせよ、こんなところで娘と話していたせいで、教会の連中に見つかってしまっては適わない。ふわりと黒髪をひるがえし、アリギュラは踵を返した。