先ほどとは違う興奮が、胸の底から沸き起こる。例えるなら、荒野に君臨する百獣の王を前にしたかのような感覚。

 気が付くと、ジークはその場に跪いていた。ジークだけではない。防壁に並ぶ兵たちが、次々に自然と跪いていく。その表情は一様に熱に浮かされたように紅潮し、まっすぐに聖女に向けられている。

 皆の視線を一身に受けながら、小柄な聖女は少しもひるむことはない。それどころか挑戦的に赤い瞳を光らせ、凛と声を張り上げた。

「走れ、『覇王の鉄槌』!」

 耳をつんざくような轟音とともに、空に稲光が走る。巨大な龍のようなそれは幾重にも枝分かれし、グズグリの群れを襲った。直撃を受けたグズグリは悲鳴を上げ、ぷすぷすと煙を上げながら海へと落ちていく。

 それを眺める聖女は、にやりと唇の端を吊り上げた。