そういった魔族は、自分や家族、仲間を人間に傷つけられた過去を持つ。中には過激な報復に出る者もいて、必要以上に人間たちを襲い、恨みを晴らそうと暴れていた。

 そんな姿を間近で見てきたからこそ、アリギュラはカイバーンを否定するつもりはない。それどころか、むしろ。

「了解じゃ」

 ひらりと手を振って、アリギュラは答える。となりで体を強張らせるメリフェトスをよそに、アリギュラはのんびりと続けた。

「いいだろう。聖女ごっこは、今日でしまいだ。連中を滅ぼしたければ、煮るなり焼くなり好きにすればいい」

「なりません、アリギュラ様!」

 アーク・ゴルドの魔王。その呼び名にふさわしく、アリギュラは赤い瞳に冷ややかな光をたたえる。そんな主に、メリフェトスは必死に訴えた。

「初めに言ったはずです。魔王サタンを討ち、エルノア国を救うのが聖女として召喚されたアリギュラ様のお役目。それがかなわなければ、アリギュラ様の魂は……!」

「黙れ、メリフェトス」

 ぴしゃりと一喝して、彼を睨む。冷たく凍えた瞳に射抜かれ、メリフェトスは思わず口をつぐんだ。