「雪那、大丈夫?」


 私を心配する千柳様の声は、
 お月様みたいに優しい。



 お月様かぁ……



 大好きだったのに……

 千柳様のことも、お月様のことも。



 昨日の昼までは……
 大好きでたまらなかったのに……
 



「雪那、本当にごめん。俺ね……」



 千柳様の声……
 聞きたくありません……


 
 私は千柳様を拒絶するように、
 思いっきり千柳様の肩を押した。


 隙間から逃げ出し。

 ドアのカギを回し、ノブに手をかける。




「千柳様……
 昨日が何の日か……ご存じですか……?」


「え?」


「私、お屋敷で待っていたんです」


「俺、何か約束した?」


「アップルパイを焼いて……
 千柳様のこと……待っていたのに……」



「もしかして……十五夜?」



 千柳様が、かすれ声を漏らした。

 私はそれを無視して
 理事長室を飛び出した。