「千柳様……大丈夫ですか?」
部屋の奥に座る俺に、
ドアの前に立ちつくす雪那の声が届く。
でも雪那は、俺を見ようとはしない。
俺を拒絶するかのように
うつむいている。
「だいぶ落ち着いたみたいだよ。
ね、千柳さん」
天使みたいなにんまり笑顔を、
天音は俺に投げかけた。
「ああ」と理事長室に響いた声は、
俺のものとは思えないくらい
情けなくて弱々しい。
「せっちゃん、
あとはお願いしてもいい?」
ちょっと、天音!
この状況で、俺と雪那を
二人だけにするつもり?
「僕ね心美ちゃんと、
ヴァン様の名ゼリフ当てクイズをする
約束をしてるの」
何その、緊急性ゼロ案件。
雪那がそんな嘘に、騙されるわけ……
「それは、早く心美ちゃんのところに
行かないとだね」
真剣な顔で。
納得したように頷いく雪那。
雪那の、ど天然。
なぜ、天音の嘘に気づけないわけ?
でも、その純粋なところが、
雪那の可愛いところなんだけど。
天音は俺に、
とびきりのウインクを投げかけると。
耳に掛けてあった重い前髪で、瞳を隠し。
理事長室を出て行ってしまった。



