「今日の夕飯は一人だし。
自分の食べたいものを、作っちゃおっと」
「何がいいかな?」と
天音君に満面の笑みを向けたのに。
「せっちゃんは
どんな食べ物が好きなの?」
返ってきたのは、温度の感じない声。
「せっちゃん自身が好きな物って
この世に存在するの?」
私、尋問でもされているの?
そう錯覚するほど
低くて冷たい天音君の声に、
私は声が吐き出せない。
「一緒に暮らして思ったけど。
せっちゃんって物を選ぶ基準が、
全て『千柳さん』だよね?」
「そんなこと……」
「じゃあ、せっちゃんの好きな色は?」
「ゴールドと黒」
「それ、千柳さんカラーだし。他には?」
「パステル系とか。白とか」
「それは、千柳さんがせっちゃんに
着せたい服の色だよね?
せっちゃん自身が好きな物って、
本当にあるの?」
急にそんなことを言われても。
今まで自分の好きな物なんて
考えたことがなかったし。



