「万里先輩、教室に戻られるのですか?」
「オマエに不良呼ばわりされるの、
勘弁だからな」
「私も戻らなきゃ……」
「オマエはサボれ!」
えっ?
「目、腫れてるままじゃ、
クラスメイトに突っ込まれるだろ?」
私が泣いたことに気づいていたのに
触れないでいてくれていたんだ。
「万里先輩の特等席、借りてもいいですか?」
「オマエだけ、特別な」
笑みの一切ない、不愛想な顔で。
私の頭を乱暴に撫で。
図書室を出て行った、万里先輩。
乱暴に撫でられた頭は
痛みさえ感じるのに。
私の心は
じわじわと温かくなっていくのがわかる。
この感じ…… 何だろう……
私の脳に刻まれた
不愛想な声と、乱暴な手のひら。
千柳様とは明らかに違う、優しさ。
千柳様と全く違う、温もり。
でも……嫌じゃない。
初めての感覚に心が乱され。
結局私は、
自分の心のざわつきが理解できなくて。
1時間目が終わるまで
図書室から動けないでいた。



