リビングに流れる、重苦しい空気。
体に取り込めば取り込むほど
喉を締めつけ、声が出てこなくなる。
長い沈黙を破ったのは……
千柳様の
地を這うような低い声だった。
「俺ね
この家を出て行くことにしたから」
家を……出る……?
「ご冗談ですよね……?」
「本気だよ」
私の耳に流れ込んだ千柳様の声は
神経に突き刺さるほど冷たくて。
千柳様の揺るがない意思が
はっきりと伝わってくる。
「今までありがとね。雪那」
そう言って
私の頭ポンポンとした千柳様。
頭の中が真っ白で。
ショックが大きすぎて。
声なんて、絞り出そうと思っても
出てきてくれなくて。
千柳様に選んでいただいたワンピースの裾を
きつく握りしめても。
心臓がキリキリ締め付けられて。
苦しくて。
涙が勝手に溢れてくる。
「心美ちゃんもいるし。
荒れ狂う猛獣2匹も一緒だし。
俺がいなくなっても、雪那は寂しくないでしょ?」
千柳様は
私の顔を心配そうにのぞき込み。
瞳に溜まった涙を優しく拭きながら
にっこり笑ってくれたけれど。
そんな贅沢な笑顔を
独り占めているのに。
『雪那はもう、俺には必要ないんだよ』
そう言われているような気がして
心が踏みつぶされたように痛くて。
苦しくて。耐えられない。



