千柳様。

 どうして、そんな辛そうに
 瞳を揺らしているのですか?


 私がこのお屋敷を出て行っても、
 千柳様が困ることは
 何一つありませんよね?




 自分の存在の儚さが悲しくて、
 ため息とともに
 視線も床に落としす。



「私はもう……
 千柳様のメイドでは……
 ありませんので……」


「メイドじゃなくても、
 この家に居てくれていいんだよ」


「父と母にも……話してあります……」


「心美ちゃん達もいるんだし。
 雪那はここに住んで……」


「一緒に住もうって……
 言ってくださる方が……
 いますので……」


「それって、雨宮君?」


 なんで急に、
 万里先輩の名前が出てくるのですか?



「雪那は彼と付き合ってるの?」



『違います!』と、
 思いっきり否定をしようと思ったのに

 私の声は、飛び出すのをやめた。



 だっていきなり、
 大好きな温もりに包まれたから。