私は隠れメイド。
千柳様にとって
お屋敷の中だけのお世話係。
子供の頃から、このお屋敷に
住まわせてもらっているけれど。
外では、千柳様と他人のフリ。
目が合っても
声なんてかけてもらえない。
それが、私と千柳様の本当の距離。
もし私がメイドではなく
普通の女の子として
千柳様と出会っていたら……
私のこと
異性として見てくれましたか?
無意味なことを考えて。
さらにため息がこぼれた時。
「雪那、おいで」
千柳様の甘く艶めいた声が
私の耳に届いた。
ソファから立ち上がった千柳様に
腕をつかまれ。
強引に引き寄せられ。
いつの間にか私の頬は、
千柳様の胸に
押し当てられている状態に。
頬に伝わる千柳様の心拍が
予想以上に力強くて。
私の心臓まで、駆け出してしまう。



