「前の晩にね、せっちゃんがお月様見て
涙をこらえてたの。
『アップルパイ、作らなきゃよかった』って
言いながらだよ」
雪那が?
「ワンピースの裾、握りしめて。
ぎゅーって唇噛みしめて。
そんなせっちゃんを見たら……
僕……苦しくなっちゃって……」
そうだったんだ……
「雨宮先輩のことを伝えれば、
千柳さんが嫉妬して……
せっちゃんに想いを伝えるかなって、
期待しちゃった……」
懺悔で心が押しつぶされているような、
天音の苦しそうな瞳。
涙が出そうなほど、顔を歪めている。
天音は、雪那の心の苦しみを
取り除いてあげたくて
理事長室に雪那を呼んで
二人きりにしてくれたんだ。
そんなことに
全く気付かないバカな俺は。
雪那と雨宮君に嫉妬して……
ボロボロに雪那の心を痛めつけて……
俺って、情けない。
本当に、どうしようもない。



