路地裏の唄

見れば、相手も通信しているのか、一文字に結ばれたように見える口元が僅かに動いているのに気付く。

様子を見ているのでも、こちらの通話を待っていたわけでもなさそうだった。

通信の相手はメーカーだろうか。



背をかがめた態勢だが苣より大きいように見える。
その背を伸ばした場合の威圧感など考えたくもなかった。



「ノギ ミヤナで相違ないな」


滑らかに確認された、なんの感情ものせられていない硬質な低音。


「よぉ知ってはるやんお兄さんストーカーちゃうーん?」

「追尾、調査は管轄外だ」


ちゃかした言葉にも律儀に返答しながら、指ぬきグローブをはめたその手に肘程まであるトンファーと一緒に握られていたらしい、小さな貝を取り出す。

おそらく、貝の形をした何らかのプログラムだろう。







「貴公の生命活動を強制的に中断させ」








頭につけていたゴーグルを装着し、暗いレンズの奥の赤が鈍く光る。












「破壊する」







その指先にあった貝がミシリと音を立て、すぐに高く短い悲鳴のような音と共に潰されると同時、周囲にいた分子達が一斉に襲いかかってきた。


貝は分子を抑えていたプログラムだったのかもしれない。




「そらまた随分とご挨拶や、なぁっ!」



リーチのある長く大きい自身のケータイをバトンのように回しながら一度に飛びかかってくる数匹をまとめて凪払う。

分子達個体は複雑な動きは出来ず、冷静に力を発揮すればあとはいかに体力を残して数を消費するかという問題になっていく。

懐に入って来る分子を短い持ち手の方で打ち上げ、分子を破壊する『vaccine soft』の起動した状態の先端部を勢い良く振り下ろすと、光の粒子は一瞬だけ辺りに散らばり、周囲の分子の小さな群れが一度に消えた。

すぐにまた群がる分子達を消しながら深梁はツールの様子を確認する。

彼はこちらを見下ろしたまま動いた気配がない。




「…高みの見物なんて、えー御身分してはるなぁ」