路地裏の唄

『ツールは?居そうか?』

「着いた時には二人居たんやけどねぇ、一人どこ行ったんやろ?」


『今いるのはどんなんだ?』



その言葉に深梁はもう一度視線を上げる。



「背ぇのんたっかい男前」



苣程ではない、とその心中でこっそりと付け足す。
只のひいき目であることは自覚している。

苣と同じ真っ白な髪に血の色をした瞳。
だが同じ整った顔立ちでも苣とは全く違う。



整い過ぎている、という印象が浮かぶのはそこに情感を全く読み取れないからか。

本当に顔と言う造形があるのみで、表情というものが浮かんでいない。


袖のない黒装束から伸びる長い腕にはしなやかそうな筋組織の隆起が見て取れる。

痩身でありながら、壁のような威圧感があった。




「武器はトンファー。長い三つ編みの先には玉飾り。あの人が噂のパンサーやと思うんやけど」

『外見的特徴を聞く限りはそのようだな。応援を呼ぼうか?』


頼もうかと考えた直後、彼のケータイは通話状態のまま別の地点でまた大量の分子発生の情報を告げた。


「そちらはんも忙しそーやし、ぼちぼち勝手しますわ」

『そうか?無茶すんなよ』


なんせ相手はあの黒豹だ。と、けして若くない声は深梁を案じる。




「りょーかいしまっした〜」


歌うように軽く返事をすると、深梁は通話をやめた。