路地裏の唄

しどろもどろながらも、なんとかそれを終えて目下の薄紅梅が離れて行くと、特に報告以外にすることのない苣は同空間に設けられたソファのある談話スペースで寛ぐ律達の方へと足を向ける。


｢今日はあいつはいないのか｣

｢あいつ？…あー深梁さんの事か。んー今日は来てないなぁ｣


｢深梁さんは本日は機関の方での任務を優先されてるみたいです｣


律と苣のやり取りにバインダーに書いたものを整理しながら緋奈咫が答える。
おそらく今彼女が提供してきた情報は、ワクチンソフト機関本部の中で管理されている所属者の外出時毎に更新される任務内容をハッキングして盗み見たものだろう。

彼女のマスターである現樂はあらゆる手を使って色んな方面から情報を集めている。

大半は各地にあるアンインストール分子の被害情報や行方不明者の情報。
彼の求める情報を入手するためのスキルを、彼女は彼自身によって持たされている。

｢じゃぁ、今日は深梁さんはここには来ないの？｣

｢最初から来る予定の場合、深梁さんは任務内容を『巡回』と申告するんですけど、今日は『討伐』になっているから…｣

｢さぼりで外出してるわけじゃねぇが、終わってから寄って行く時もあるな｣


結局、来ると分かっているわけではないが絶対来ないというわけでもないと言ったところか。