路地裏の唄




「外に行ってくる」



『そ。行ッテおいデ』




暗転する意識。


あれから、数日置いたり、連日であったり、不定期にラプソディアへ足を運ぶも、メーカーに何か言われる事はないようだった。

ラプソディアには行く度に深梁によって甘味処巡りに付き合わされる。
行く度に不平を漏らす苣だが、そのやり取りがもう二人の間で日常化していて本気の抵抗は頭になかった。




意識が晴れて来ると、街角。

辺りの風景から現在地を把握すると、その人通りの少ない道から建物の屋上へと跳躍する。

屋上や屋根を足場に飛び移り、ラプソディアの本部、現樂の自宅へと降り立つ。

十分とかかっていないだろう。



無人の玄関を通り、真っ直ぐ書斎に入れば、いつものように書類の山の奥におそらくいるのであろう家主と、傍らに立ち自分に視線を向ける家主のケータイ。


「おぅ苣」

「あ、苣だ。おはよー」


入ってすぐのソファに居た原十郎と律が笑いかける。
特に返事はしない。
いつもの事だ。


今日は他にここにいるメンバーはいないらしく、静かなものだった。
『巣』とは質を違える沈黙。

どこがどう、とは言い難い。


「報告の方を、先に伺います」


見れば、バインダーを持った緋奈咫が現樂のデスクの横から苣の目の前へと移動して来ていた。
控え目だが華やかな薄紅梅の瞳で見つめられ、苣はすぐに視線を逸らし、別段変化の見られなかった『巣』の様子を途切れ途切れに話し出す。

深梁がいれば苣の赤くなった顔とスムーズに話せない様子を突っ込んだのだが、現在ここにそのことに留意し、かつ口に出す者はいない。