すぐ右側から聞こえてきた声に視線を巡らせれば大きめのチェアに座りながら小型のタッチパネルを弄る少年が視界に入る。

苣やコンツと同じ白髪に赤眼。
コンツの胸元くらいまでしかない背に取り澄ましたような大きな眼の小生意気そうな顔立ち。
成長途中の雰囲気が忠実に再現されたやんちゃそうな半そで半ズボンから出た細い手足。

そして頭身の大きい頭につけられたヘッドホンのような機材。


鹿の型を持つツール、朔(サク)。


『朔』というのはこのケータイの少年がストールズに拾われてきた際に首に付いていたネームタグのペンダントにあった名だった。

こちらに興味なさそうにモニタばかりを見ているがレッド級のツールの中で無駄口と嫌味を合わせて喋るのは苣の把握する中では彼が一番得意としている。


「朔だけか」

「リンクとシェルは任務中。テリアは散歩でも行ってるんじゃない?」


やや迷惑そうに返す。

嫌味を言うくせに干渉されるのを嫌うのだ。

端から彼の嫌味にいちいち反応する程人に近い感情は基本的にツールになったケータイには存在しない。
現樂と緋奈咫に心理機関の修復を施された苣と、自己リペアが起こったコンツにはそれが相手を不快にさせるタイプのものだと言う判断はついた。
しかし、それはもともとの朔の基盤として使用されたタイプによるもので修復のきく範囲でないこともわかっている。


そんなことに反応していたらキリがない。