「それではひととき、さよならです。我が君」



そうコンツが律を前に小さく微笑む様子を、苣は横目でなんとなしに見る。

今まで自分と共に仕事をこなしていたこともあった妹分の変わり方に、正直なところもの珍しさのような関心の念が発生している心中に気付き、本当に洗脳が外れかけていることを実感する。

二人はとりあえず一度ストールズの巣に戻る事にしたのだ。
まだ二人の洗脳が外れかけていることが発覚していないのなら、あまり事を荒立てずに様子を見るため、まずはコンツが苣を伴ってあちらに戻ることになった。


ラプソディアの面々には再び洗脳を掛け直される事を懸念されたが、その点はおそらく問題のないことを伝えておいた。


「ストールズではメーカーによって毎日午前零時にツールのメンテナンスが行われているが、洗脳を駆けるとしたらその時に更新しているのだろう。もとより俺やコンツは殆どメンテナンスには顔を出さないから」

「メンテナンスって強制ちゃうの?」

「行かなくとも特に何か強い催促を受けた事はない。リンク…パンサーの事だが、あいつは毎度欠かさずメンテナンスを受けているが逆にシェルの方は行っているのを見た試しがない」

「なんやの、結構ユルない?」

「管理体制の事を言っているのなら俺の知るところではない。メーカーは得体が知れん」



ふぅん、と軽い相槌をする紫髪紫眼の少女を見る。
ここ数日の中でこの少女には随分と糖分を摂取させられた。

貧血持ちで少食なくせに、力は強い。
と言ってもそれはヒトの中ではの話で、苣が本気で彼女の腕を振り払おうと思えばそれは別段困難な事ではない。

しかしそれをしなかったのはきっとその必要性がなかったからだと思う。