なんとなく数秒間お互い何も言わずに観察し合っていたが、やがて律が口を開いた。

「コンツは元々はマスターがいたんだよね?」

「ツールになる前のメモリは消去されているので情報はありませんが。レッドに分類されているのだからそうなのでしょう」

「そか。これからよろしくね」

「宜しく、とは?」


さらりとしたコンツの穏やかな問いに一瞬律は面食らう。
しかしすぐにヒト特有の曖昧な言い回しが伝わらなかったのだと思い至り微笑んだ。


「思い出から消したくなるような関係にはなりたくないなって思ったんだ。だからその手始めみたいな感じ」

「我が君をメモリから削除したいと言う願望はありませんが」

「そういう思い出をいっぱい作ろう?」


そう言って律が更に笑みを深くすると、コンツは少し眩しそうに僅か目を細め、少し頬を赤らめた。
そしてコクリと頷く。



ついさっきまで敵として相対していたはずの相手に、律自身その胸が確かに温かく疼くのを確かに感じた。