30年前ー。
 夏の暑い日に、あたしは産まれた。
 白粉(おしろい)でもつけたかのように、真っ白な子で、父も、母も、兄も、喜んでいた。
 兄は、当時2歳。
 父に連れられて、毎日、来てくれた。
 兄は、「赤ちゃん、可愛い。」とか、「僕が抱っこする!」とか、「僕が、ミルク飲ませる!」なんて言って、あたしを離さなかったらしい。
 あたしが、寝ていると、「赤ちゃんが、起きるから、しーっ!!」と怒ったり、していたらしく、兄は、あたしにメロメロだったと、後に聞かされた。
 父と母は、兄の赤ちゃん返りを、心配していたらしいが、そんなことは、全くなかったらしい。
 一緒に寝る時は、腕枕までしていたそうで、かなりの、シスコンぶりをはっきしていたと…。
 あたしの名前は、兄が付けてくれた。
 「赤ちゃん、今日から、えりちゃんだよ。
僕が、考えたんだ。
いいお名前でしょ?
えりちゃん。」
 あたしが、生後2ヶ月の時、母の実家に、あたしを連れて帰ると、曽祖母が、「えりちゃんが、窓から落ちたら大変!」と窓に、柵をつけてくれた。
 あたしは、幸せな、赤ちゃん時代を送っていた。
 でも、そんな幸せは、すぐに、なくなってしまった…。
 あたしが、1歳になる前に、父と母が、離婚した。
 兄は、父に引き取られ、あたしは、母に引き取られた。
 兄は、あたしと、離れることに、かなりのショックを受け、「えりちゃんと離れたくないっ!」と駄々をこねた。
 そのこともあってか、母は、夜中に、あたしを連れて、実家に戻ったらしい。
 母の実家での暮らしも、曽祖母や、祖母、母の叔父と叔母、母の妹達に囲まれて、幸せだった。
 あたしは、すくすくと育ち、2歳になる前に、母が、再婚した。
 「母の連れ子だから、可愛がられない。」と、周囲は思っていた。
 その上、義父は、お金がなかったので、「財産目当て。」など、影で、悪口を言われていたらしい。
 母は、あたしのことより、父のことを、守るようになった。
 あたしは、必死で、愛嬌を振りまき、周りに、助けてもらっていた。
 赤ちゃんなりの、防衛反応だった。
 義父は、周りに、認めてもらえるように、あたしを可愛がった。
 子どもが好きそうな、遊園地や、大きな公園、水族館…。
 色んな所に連れて行ってくれた。
 あたしは、義父を本当の父だと思って、育った。
 優しい、父と母…。
 この幸せが、続けば良かった…。