「先生、わたし……やっぱり医者を辞めたくないです。 たくさんの患者さんを、助けたいです」
そのセリフを自分の口から話したと同時に、自然と涙がこぼれた。これは演技ではなく、気持ちや役に入り込んだ結果だった。 誰も予想していないことだった。
「島田、その気持ちを忘れるな。……お前はもう、研修医じゃない。一人の立派な医者なんだ」
「……はい。頑張ります、わたし」
そうやって言われたセリフの後、カットがかかった。こぼれた涙を拭いながら、わたしはモニターをチェックした。
思えば第9話の中盤で、わたしは患者さんを助けることが出来なくて、それに対して悩むというシーンがあった。先輩の医者に慰められるというシーンがあったけど、その時も、自然と涙がこぼれていた。 それはきっと役に入り込めたから。
わたしは本当に医者なのではないか。そう思うように役を演じると、自然と役に入りこめることが出来たのだ。島田和菜という、一人の医者を演じることで伝わる何かがあるのではないか。そう思った。



