内心ドキリとしていた私をよそに、先輩はいつもの調子で言葉を続ける。


「俺が陸部だってこと、知らなかった?」


「え、ええと……はい。すみません」



そっか、だからあんなに速かったんだ。


遠見先輩の、「アイツは分の悪い賭けはしない」っていう言葉にも、納得。




「じゃあ、逆にちょうどいいや。『先輩』としての俺じゃなくて、『陸上選手』としての俺のことも、見てほしいな」



真っすぐに私の目を見つめて、先輩は言う。



「わ、分かりました。それが、先輩のお願いなら」



つい、「お願い」を叶えるためっていうニュアンスを出しちゃったけど。



賭けなんてしていなくても、先輩が大会でがんばる姿は、見てみたい。


いつもの、ちょっぴりからかってきて、生き生きとした笑顔を浮かべる李世先輩もカッコいいけど、


真剣な表情で、わき目もふらず一直線に走る先輩も、すごくカッコよかったから。