……とりあえず、インターホンの画面を確認してみようか。
恐怖心がないわけではないが、相手の顔すら確かめずに怖がるわけにもいかない。
こんな声優にも負けない美声の持ち主、私の知り合いにはいないけれど、万が一ということもある。
私はベッドからなるべく音をたてずにリビングに移動した。
こんなことなら、多少家賃が高くてもちゃんとオートロックがついてるマンションに引っ越せばよかった……そんな後悔を漂わせつつ、インターホン画面に目をやった。


「橋本さまー、お留守ですかー?シアワセ・クリーン・サービスです!」

画面に映っているのは、比較的若い男だった。
キャップを浅く被っていて、そこには“シアワセ・クリーン・サービス”とカタカナで記されている。
男前声を裏切らない、なかなかのイケメンだ。
だがこんなイケメンだからこそ、もし知り合いなら私の記憶に残っていないのはおかしい。
要するに、このシアワセ・クリーン・サービスの営業マンは、私の関係者ではないのだ。
ではなぜ私の家を知っているのか?
いや、そもそも彼は、ただの営業マンなのだろうか?
だってまるで、彼は私の家を狙って訪ねているようではないか。
宅配業者が私宛の荷物を届けるがごとく、私のみに目的があるような様子だ。

……どうしよう、もしかして不審者?
でもピンポイントで訪ねてるあたり、もしかしたら本当に私に用があるのかも?
ただ、シアワセ・クリーン・サービスなんて会社には心当たりの欠片すらないのだ。
迷いに迷った末、やはり居留守を貫くことにした。
例え私に用があったのだとしても、ずっと無視してればいつかは諦めて帰るだろう。
だけどもしもという場合に備え、念のために着替えておこうと、私は寝室に戻った。なるべく静かにだ。
だがそのとき、


「橋本さまー!同僚の平野真実さまからのご紹介で伺いましたが、お留守ですかー?」

扉の向こうから、またもやピンポイントの名前が飛び込んできたのである。

平野と聞き、聞き覚えがありすぎた私は思わず身体をビクリとさせてしまう。
その反動で、床に転がっていたテレビのリモコンを踏みつけてしまい、パッと電源が入った。
とたんに、賑やかな音楽と陽気なナレーションのコマーシャルが容赦なく流れ出す。

「―――っ!」

慌ててリモコンに手を伸ばすも、それよりも早くに、室内の異変を察知した外からの声が大きく侵入してきたのだった。

「あ、橋本さま、いらっしゃったんですね?おはようございます!シアワセ・クリーン・サービスです!」