婚約を結んでから五年が経ち、ステファンは十六歳、アリシアは十五歳へと成長した。
 二人はいま、貴族が通う学園の二年生と一年生の学年に所属していて、毎朝馬車を乗り合わせて一緒に登下校している。

「この本凄く素敵なの。また読み返してしまったわ。おかげで今日も寝不足なの」

「ベストセラーだしね。僕のクラスでもみんな読んでいるって言っていたよ」

 五年前のあの日から、アリシアは笑顔を取り戻し日常生活を支障なく送る程度に回復した。
 彼女は、どこに行くにもお気に入りの本を両手に抱えていて、いつでも物語と登場人物の話をしたがった。

「ステファンの髪の色は、この本のヒーローと同じ亜麻色でいいわよね。私の髪色はどの本でも悪役令嬢ばかり。ヒロインは金髪が多いのよ」

「王家の血筋が金髪だからね。対比した人物像を描くのに選ばれやすいだけだよ。僕はアリシアのブルネットの髪が気に入っているよ」

「ふふふ、ありがとうステファン。とっても素敵なヒーローだわ」

 馬車の中では、いつも本の世界の名台詞が繰り広げられていた。
 アリシアの好きな本が変わるたびに、ステファンの見た目と立ち振る舞いは変わっていく。
 その度に、アリシアは新しいヒーロー姿のステファンと恋に落ちるのだ。

 傍から見れば仲睦まじく、周囲からは『おしどり夫婦』の称号を贈られるほどに順調な二人であった。