「なんなのよ! いいかげんにしてよ! わたしは掛居氏にいま、合図されたから行く。もう、あんたたちのことなんか……知らないっ!」
「…………」
 ごめんね、岡本。
「おーい、岡本くん。こっち!」
 掛居が呼んでいる。
 もう、わたしのことはどうでもいいんだね。
 当たり前だけどね。
 ちょっとさみしい……。


 ぽこんとみんなの輪から飛び出している掛居の頭が、移動し始めた。
 集団もなんだか楽しそうに移動していく。
 一瞬あれ? っと思ったことは、不安にかきけされてしまった。
「あーあ」
 山田にマップをあげてしまったわたしはもう、時間のつぶしかたもわからない。
「開演まで、どこにいようか……」
 お昼ごはんは楽しみにしてたのにな。
 丸をつけたお店がもうわからない。
 なまじマップを作ったことに安心して、すべてがうろおぼえ。
「地理はだめだなぁ、わたし」
「いまごろ気づいてんのかよ」
「――――ぇ?」
 うしろから聞こえた声よりわたしを釘づけにしたのは掛居の手。
 目で追っていたからわかる。
 どんどん遠ざかっていく掛居の手が、すっと上がって空中でひらりと揺れた。