愛美は一人呟く。これではあまりにも妄想(もうそう)が過ぎる。
 それは、ジュディが物語のヒロインだから起こり得た奇跡だ。現実に起こる確率は限りなくゼロに近いと思う。

「……でも、ゼロだとも言えないよね」

 希望は捨てたくない。自分の境遇(きょうぐう)(うれ)いて、手を差し伸べてくれる人がきっと現れる――。いつもそう思っているから、愛美はこの本を読むことをやめられないのだ。

 ――弟妹たちが食堂から戻ってきたことにも気づかず、愛美が読書に夢中になっていると……。

「――愛美姉ちゃーん! 園長先生が呼んでるよー!」

 部屋の外から涼介の声がした。愛美はすぐ廊下に出て、彼に(たず)ねる。

「園長先生が? わたしに何のご用だろう?」

「さあ? オレはそこまで聞いてないけど。ただ『呼んできて』って頼まれただけだよ」

「……そっか、分かった。ちょっと行ってくるね。ありがと、リョウちゃん」

 涼介はこの施設の子供の中で、愛美と一番(とし)が近いので、話も合うし仲がいい。だからこうして、たまに愛美の呼び出し係にされることもある。
 でも、彼は「イヤだ」と言わない。彼にとって愛美姉ちゃんは、血は繋がっていなくても実の姉のような存在だから。〝姉ちゃん〟の役に立てることが嬉しくて仕方ないのだ。