「それもないよ。だって、学校の男の子たちからは同情しかされなかったもん。わたし、施設で育ったからって同情されるの大っキライなの」

「そうなんだ……。じゃ、今まで一度も恋したことないの?」

「うん、まあそうなるよね。……でも、初恋がまだって遅いのかな? 世間的には」

 自分が世間的にズレていることは愛美自身も分かっていたし、ずいぶん気にしてもいた。
 中学時代の友達の中には、好きな人どころか「彼氏がいる」という子もいた。愛美は「自分は自分、焦る必要なんかない」と自分に言い聞かせていたけれど、やっぱり少しくらいは焦るべきだったんだろうか?

「まあ、それは人それぞれでしょ。気にすることないよ。あたしもおんなじようなもんだし」

「えっ、そうなの?」

「うん。なんかねえ、同世代の男ってガキっぽく見えるんだよね。だから異性に興味なかったの」

 さやかはクールに答えた。
 確かに愛美も、同じ年代でも女子の方が考え方が大人で、男子の方が子供っぽいと雑誌か何かで読んだことがあったかもしれない。

「そっか。でも、そうだね。これから先、わたしたちにもいい出会いがあるかもね」

「うん、そうだねー。――あ、あたしはそろそろ部屋に戻るよ。宿題やんなきゃ」

 さやかは学校が終わるなり、制服のまま愛美の部屋に来ていた。
 おしゃべり夢中になっているうちに、夕方の五時半になっていたのだ。あと三十分ほどで夕食の時間になる。